水溶性切削油・研削油の使用による手荒れ
金属加工業などの生産現場においては、材料を求められる形状や寸法に仕上げるために切削油・研削油が使用されています。特に近年は労働者の安全衛生管理や作業環境についても見直されるようになり、人体や環境にやさしい油剤へのニーズが高まってきています。
本コラムでは、作業環境に影響を及ぼす要因の1つである、水溶性切削油による手荒れの問題について取り上げます。現場の環境改善に興味のお持ちの方、「切削油を使用すると肌が荒れる」「手が荒れやすい作業者に機械加工を任せることができない」「作業環境が合わず辞めてしまう社員がいる」といったお困りごとをお持ちの方は、是非最後までご覧ください。
(1)切削油が人体に及ぼす影響
切削油は通常、加工する材料(ワ―ク)に直接噴射して使用されます。噴射した際にはミストが生じることがあり、加工したワークには液が付着していることから現場作業者の手肌に触れることがあります。その後しばらくすると手荒れが発生して、ヒリヒリと痛んだり、皮が剥げてしまったりなど、人体に影響を生じる場合があります。手荒れには個人差があり、切削油に触れてもほとんど手が荒れない人もいれば、少し触れただけでも手が荒れてしまう人もいます。このように、手荒れの原因は複数ありますが、手荒れしやすい作業者への配慮は製造現場で求められる課題の1つです。
(2)手荒れの原因
①切り屑
切削加工では材料を削る際に切り屑が排出され、周辺に飛散します。切り屑は目視可能なものから、目に見えない大きさのものまであり、特に目に見えないものが皮膚を傷つけてしまうことがあります。その傷跡に切削油が触れると、炎症を発生させることがあります。
②切削油に含まれる界面活性剤
水溶性切削油・研削油に使用されている界面活性剤は、液が刃先やワークの隅々までいきわたるために浸透性を高めたり、切り屑の排出を促進し、機械やワークを清浄な状態に維持するために洗浄性を高めたりする効果があります。この界面活性剤を含む切削油が手肌に触れた際に傷口や爪の生え際を刺激してしまったり、皮膚の保湿分や油分を洗い流してしまったりして手荒れを引き起こしてしまうことがあります。
③切削油に含まれる防腐剤(殺菌剤)
水溶性切削油にはバクテリアの繁殖等による液の腐敗・劣化を防ぐために、多くの場合、防腐剤(殺菌剤)が使用されています。工場によっては、後から液に添加されることもあるかもしれません。防腐剤は皮膚刺激性や刺激臭の強い場合があり、含有している液が皮膚に触れてしまった場合に炎症を引き起こしてしまうことがあります。
さらに水溶性切削油の劣化度を確かめる方法としてpH測定があります。測定器にはデジタルとアナログと両方あり、アナログの場合には試験紙に使用液を付けてpH値を判断する手順で、錆止め性を確認することができます。pH値はJIS規格で8.5以上10.5未満であるよう定められています。但し、製品ごとにpH値の推奨が定められているので、ご確認ください。クーラントの性能を確かめるためにpH測定は実施することを推奨されています。
(3)手荒れ対策について
①濃度管理を行う
切削油の濃度が推奨値より高くなってしまうと、手荒れが生じることがあります。定期的に濃度測定を行い、高すぎる場合は推奨値に調整するだけでも手荒れが改善する可能性があります。
②防腐剤を使用していない切削油を使用する
切削油の中には防腐剤を配合していないものもあり、配合しているものに比べて皮膚刺激性を抑えることが期待できます。しかし、同時に耐腐敗性が劣ってしまうことからクーラントの腐敗・劣化など別のトラブルが発生しやすくなってしまい、頻繁にクーラントを全交換することになってしまう場合があります。
③手袋は着用できない
切削油が手肌に触れるのを防ぐために皮膚をカバーしたいところですが、切削加工に関わる作業で使用する場合は、回転工具による巻き込み事故など、別の労働災害を引き起こしてしまう危険性があり、手袋の着用はできない場合があります。
(4)製品・事例のご紹介
①特殊な防腐剤を使用した水溶性切削油剤
化粧品グレードの安全性を有する、皮膚刺激や環境負荷の少ない防腐剤を使用した水溶性切削油があります。液に含有される防腐剤を変えることで、使用者の手荒れの改善が期待できます。防腐剤を使用しないと抗菌性が弱くなってしまい、腐敗や劣化が発生しやすくなってしまうので、防腐剤の中身を変えることで従来の水溶性切削油の問題点の解消に役立ちます。本商品は耐腐敗性に優れるため、クーラントの長期使用・ロングライフ化も期待できます。
②人にやさしい 化粧品認可 ハンドソープ
スクラブ入りの手洗い石鹸で手を洗っていて、研磨剤が手肌を傷つけてしまい、そこから手荒れが発生し困っているお客様に対して、研磨剤が入っておらず、手肌をいたわる成分配合のハンドソープをご提案した結果、手荒れを改善することができたという事例があります。また、従来の手に付着した油汚れも落とすことができ、汚れ落ちもご満足いただく事ができました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。ただし、手荒れは使用者の体質によりますので、上記の方法で必ずしも解決できるとは限りません。ご注意ください。
Lube Laboでは、2,000点を超える商品を扱い、工業用潤滑油に関して様々な問題解決の実績がございます。
気になった方は、お気軽にお問い合わせください。